通帳に記録として残っている、貯めてきた過程が説明できるお金だけが自己資金として通ります。
直前に一括で入金されたお金は、実額の半分以下でしか評価されないと考えてください。
サロン開業の相談で、いちばん多い誤解があります。
「自己資金は300万あります」と言われて通帳を見せてもらうと、直近1か月で家族から振り込まれていた。
これは自己資金として通りません。
公庫の面談で、担当者が最初に開くのが通帳です。
私は杉並区で美容業に強い税理士事務所をやっています。
美容室・ネイル・エステ・まつげエクステの創業融資を、日本政策金融公庫の担当窓口と連携しながら申請前からサポートしています。
今日は、面談で見せ金と判定されないために、通帳をどう整えておくかを書きます。
2024年度に公庫の創業融資制度が「新規開業資金」に統合され、書類上の自己資金要件は原則撤廃されました。
ただし審査の現場では、自己資金の額と、それをどう貯めてきたかは今も強く見られます。
「要件がなくなった=ゼロでいい」ではありません。実務は変わっていない、と思ってください。
自己資金として認められるお金、認められないお金
公庫の担当者が自己資金として評価するのは、こういうお金です。
- 給与や事業収入から、月々コツコツ貯めてきた預金
- 満期になった財形貯蓄・積立定期
- 退職金として振り込まれた入金
- 配偶者・親からの贈与で、贈与契約書と贈与税申告があるもの
逆に、自己資金として認められない、あるいは大きく減額されるのがこちらです。
- 面談の直前に一括で入金されたまとまったお金
- 出どころが説明できない現金入金(いわゆるタンス預金)
- カードローン・消費者金融からの借入金
- 家族からの一時的な借入(返す前提のお金)
判定の基準は「返済原資として使えるかどうか」ではなく、
「あなた自身の努力で用意できたお金であることが、通帳で証明できるか」です。
通帳履歴はどれくらい遡って見られるか
面談時に提出を求められる通帳は、直近半年〜1年分が基本です。
実際は事業用に使う予定の口座、生活費の口座、貯蓄用の口座すべてを求められることが多いです。
私が同席した面談では、担当者はまず自己資金の総額を確認し、次に「この300万円は、いつ頃から、どうやって貯まったんですか」と必ず聞きます。
そこで通帳を1年前までさかのぼり、月々の入金と支出をチェックします。
美容師さんに多い例で言うと、こういう見え方が理想です。
- 給与25万円が毎月25日に入金
- 家賃・生活費で18万円ほど引き落とし
- 残り7万円が定期的に貯蓄口座へ移動
- 12か月で84万円、24か月で168万円が積み上がっている
これが「自己資金として貯めてきたお金」の見え方です。
金額よりも、パターンとして残っている履歴が強い証拠になります。
いわゆる「見せ金」はなぜ通らないか
見せ金とは、面談直前に他から借りて通帳に入れ、自己資金があるように見せる行為です。
面談用に親から100万円振り込んでもらう、消費者金融で借りて自分の口座に移す、といった動きが典型例です。
担当者は通帳を1年分見ますから、直前の大きな入金は必ず気づきます。
そして、その入金を「自己資金の実額」から除外して評価します。
300万円のうち200万円が直前入金だと、実質の自己資金は100万円扱いです。
希望額500万円で申し込んでも、100万円ベースで返済能力を見られることになります。
もっと悪いのは、見せ金と判定された事実そのものが心証を悪くする点です。
金融機関は「この人は数字を都合よく見せようとする人だ」と判断します。
金額の減点よりも、この心証の減点のほうが大きいことが多いです。
親・配偶者からの資金は、贈与にすればOKになる
家族からの支援を自己資金に組み込みたいときは、贈与として整えれば通ります。
やることは3つです。
- 贈与契約書を紙で残す(受贈者と贈与者の署名・押印、日付、金額)
- 通帳への振込で記録を残す(現金手渡しではなく振込)
- 年間110万円を超えるなら贈与税の申告をする
私が担当したケースで、母親から300万円を援助してもらったネイリストさんがいました。
贈与契約書を作り、300万円を振込で受け取り、翌年3月に贈与税19万円を申告して納付しました。
これで面談時、300万円は完全に自己資金として扱われました。
「借りたお金を返す前提」で受け取ると、それは自己資金ではなく他人からの借入です。
公庫の融資と重ねると、返済能力を見る計算でマイナスに働きます。
援助してもらうと決めたら、返さない前提=贈与、で最初から整理してください。
タンス預金・現金一括入金の扱い
現金で貯めてきた100万円を、面談前にまとめて入金する。
気持ちはわかります。ただ、これも見せ金と同じ扱いになりやすいです。
通帳上は「出どころ不明の一括入金」として見えるからです。
どうしても現金を組み込みたい場合は、遅くとも申請の6か月前には少しずつ入金し始めてください。
月10万円ずつ、10か月かけて100万円にする。
これなら「コツコツ貯めた」と説明できる履歴になります。
自己資金の相場と、目標金額の作り方
美容サロンの創業融資で必要な自己資金の相場は、開業総額の2〜3割です。
| 業態 | 開業総額目安 | 自己資金の目安 |
|---|---|---|
| 個人美容室(10坪・セット面2〜3面) | 800万〜1,500万円 | 200万〜400万円 |
| ネイルサロン(テナント) | 300万〜600万円 | 80万〜180万円 |
| エステサロン(機器あり) | 500万〜1,000万円 | 150万〜300万円 |
| まつげエクステ(13㎡程度) | 400万〜700万円 | 100万〜200万円 |
金額の作り方は、「今の月給から、家賃と生活費を引いて、残る金額×貯める月数」で逆算します。
月7万円貯められる方なら、24か月で168万円。
これに賞与を月1回分乗せて、200万円を超える設計にする。
このやり方なら履歴もセットで残ります。
より詳しい相場感は、美容室開業の自己資金はいくら必要か|100万・300万・500万で審査がどう変わるか にまとめています。
面談で聞かれること、答え方の例
面談で「この自己資金はどうやって貯めましたか」と聞かれたら、
金額と時期と経路を、通帳のページを指しながら答えてください。
例:「表参道のサロンに勤めながら、月給25万円のうち、家賃と生活費を除いて毎月7万円を別口座に移していました。ここに賞与を年2回、20万円ずつ足しています。3年間続けて、いまが258万円です」
このように具体的に答えられる人は、それだけで審査で加点されます。
逆に「なんとなく貯まっていて…」だと、担当者は不安になります。
創業計画書全体の書き方については、美容室の創業計画書の書き方|全8欄の記入例とポイントを税理士が解説 を先に読んでおくと、面談で聞かれる筋がわかります。
自己資金ゼロで融資は通るのか
制度上は「自己資金ゼロでも申込みは可能」です。
ただし、実際に希望額どおり通ることはほとんどありません。
通ったとしても、希望額の3〜5割まで減額されるのが実情です。
美容サロンは家賃・内装・機器・材料・運転資金と、開業から半年で数百万円のキャッシュが出ていきます。
自己資金ゼロの状態で全額借りると、返済初月から資金繰りが厳しくなります。
「通るかどうか」よりも「開業後にお金が回るか」で考えたほうがいいテーマです。
よくある質問
- Q. 自己資金の出どころはどこまで説明が必要ですか
- A. 通帳で1年前まで遡り、いつ・いくら・どこから入ったかを説明できる必要があります。給与や賞与、贈与など経路が明確なお金は評価されます。直前の一括入金や現金入金は、出どころ不明として自己資金から除外されることが多いです。
- Q. 親から借りたお金は自己資金になりますか
- A. 借りたままだと自己資金ではなく他人からの借入扱いです。贈与契約書を作り、振込で受け取り、年間110万円を超えるなら贈与税を申告することで、初めて自己資金として扱われます。
- Q. タンス預金100万円を面談前に一括入金するとどう見られますか
- A. 出どころ不明の入金として、自己資金の実額からほぼ全額除外されます。加えて心証が悪くなり、他の項目にも影響します。組み込みたい場合は6か月以上前から月々分けて入金し、履歴を作ってください。
- Q. 自己資金ゼロでも創業融資は申し込めますか
- A. 制度上は可能ですが、実際に希望額どおり通ることはほとんどありません。通っても3〜5割程度に減額されます。美容サロンは開業後半年で数百万円のキャッシュが出ていくため、開業後の資金繰りの観点からも自己資金は必要です。
杉並・中野・吉祥寺でサロン開業予定の方へ
当事務所は杉並区。日本政策金融公庫の担当窓口と連携し、創業融資を申請前の段階からサポートしています。オンラインで全国からのご相談も可能です。

