美容室の2割特例は令和8年分で終わり|3割特例と簡易課税、年分ごとに整理しました

2割特例は今年で最後|次に選ぶ消費税の方法 サロン経営とお金
この記事の結論(3行)
・2割特例が使えるのは令和8年分(2026年分=2027年3月申告)が最後です。
・令和9年分・令和10年分は、個人事業者だけが使える「3割特例」。事前の届出は不要です。
・令和11年分からは簡易課税(美容業は第5種・みなし仕入率50%)か本則課税。簡易課税の届出は、条件つきで後追いできるようになりました。

閉店後のサロン。タオルを回して、レジを締めて、ようやく鏡の前の椅子に座る。パソコンを開くと、去年の確定申告のフォルダがそのまま残っています。消費税の納付書を見たときの、あの少し息が止まる感じ。あれからもう一年です。

先日、荻窪の美容室のオーナーさんから電話がありました。「2割特例、来年から使えなくなるって本当ですか」。ネットで調べたけれど、サイトによって書いてあることが違う、と言われました。50%と書いてある記事もあれば、70%と書いてある記事もある、と。

違って見えるのは、更新日が違うからです。

こんにちは。杉並区で美容業専門の税理士事務所をやっている清水智佳子です。この記事では、2割特例が終わったあと、令和9年から令和11年にかけてサロンが何をいつまでに決めればいいのかを、年分ごとに整理します。

よくある質問

Q. 2割特例は結局いつまで使えますか。
A. 対象は「令和8年9月30日までの日の属する課税期間」です。個人事業主の課税期間は1月1日から12月31日なので、令和8年分(2026年分・2027年3月申告)が最後になります(国税庁インボイスQ&A問115ほか、2026年8月時点)。
Q. 3割特例を使うのに、何か届出は要りますか。
A. 事前の届出は不要です。確定申告書に記載するだけで適用できます。ただし対象は個人事業者に限られ、法人には延長がありません(令和8年度税制改正、令和7年12月26日閣議決定)。
Q. うちは免税事業者のスタッフに面貸ししています。10月から控除は50%になりますか。
A. 改正前の予定は50%でしたが、令和8年度税制改正で70%に緩和されました。令和8年10月1日から令和10年9月30日までは70%です(国税庁 令和8年度税制改正特集、財務省 令和8年度税制改正大綱概要)。

まず、2割特例が使えるのは令和8年分が最後です

2割特例は、正式には「小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置」といいます。インボイス登録をしたために免税事業者から課税事業者になった方が、納める消費税を売上にかかる消費税の2割で済ませられる、という仕組みです。登録した多くのサロンが、これに助けられてきました。

この特例の対象は「令和8年9月30日までの日の属する課税期間」です。個人事業主の課税期間は暦年、つまり1月1日から12月31日。令和8年9月30日はその期間の中にありますから、令和8年分がまるごと対象になり、そこで終わります。令和9年分にはもう届きません(国税庁パンフレット、インボイスQ&A問115。2026年8月時点)。

年分で並べると、こうなります。

令和8年分(2026年分・2027年3月申告)
2割特例が使える最後の年。納税は売上税額の2割。
令和9年分(2027年分)
3割特例。個人事業者限定。納税は売上税額の3割。届出不要。
令和10年分(2028年分)
3割特例の最終年。
令和11年分(2029年分)以降
簡易課税か本則課税。ここで初めて「選ぶ」必要が出てきます。

つまり、いま慌てて動く必要はありません。ただ、令和10年の年末までに簡易課税を選ぶかどうかを決める、という予定だけは頭に入れておいてください。

令和9年・令和10年は「3割特例」。個人事業者だけの2年間

令和8年度税制改正(令和7年12月26日閣議決定)で新しく作られたのが、この3割特例です。個人事業者に限り、令和9年分と令和10年分について、納付税額を売上税額の3割にできます。法人には延長がありません。ここは、法人成りを検討している方には効いてくる違いです。

要件は、インボイス登録によって免税事業者から課税事業者になった個人事業者であること、そして基準期間の課税売上高が1,000万円以下であること。2割特例を使ってきた方なら、そのまま横すべりで入れるイメージです。

負担がどれくらい変わるか、数字で見てみます。年間売上550万円(税抜500万円、消費税50万円)のサロンなら、2割特例での納税は約10万円。3割特例なら約15万円。差は5万円です。小さくはありませんが、いきなり本則課税になるのとは景色が違います。

そして、事前の届出は不要です。申告書に記載するだけ。「届出を出し忘れて使えなかった」という事故が起きない設計になっているのは、正直ありがたい改正だと思っています。

令和11年分から、簡易課税か本則課税かを選ぶ

3割特例が終わる令和11年分。ここが本当の分岐点です。

美容業は第5種事業、みなし仕入率50%

簡易課税は、売上にかかった消費税に業種ごとの「みなし仕入率」を掛けて、仕入にかかった消費税とみなす制度です。美容業は第5種事業、みなし仕入率は50%(国税庁 タックスアンサー No.6509)。先ほどの売上550万円の例なら、納税は50万円の半分で25万円という計算になります。

本則課税は、実際に払った消費税を積み上げて差し引く方法です。材料仕入れが多い、設備投資をした、という年は本則課税のほうが有利になることがあります。一方で、人件費(給与)には消費税がかかりませんから、スタッフを雇って人件費比率が高いサロンは、本則課税だと控除できるものが少なくなりがちです。ここは店ごとに本当に違います。美容室の開業資金の内訳で触れたような、設備の入れ替え時期とも関わってきます。

届出期限は「前日まで」が原則

簡易課税を使うには、消費税簡易課税制度選択届出書を出します。期限は原則として、適用を受けたい課税期間の初日の前日まで。令和11年分から使いたいなら令和10年12月31日までです。基準期間の課税売上高5,000万円以下であること、最低2年は継続することが条件になります(国税庁 タックスアンサー No.6505)。

2割・3割特例の翌課税期間は、後追いで選べます

ここが令和8年度改正のもうひとつの大きな緩和です。2割特例や3割特例を受けた翌課税期間については、その課税期間の確定申告期限までに簡易課税制度選択届出書を出せば間に合います。

言い換えると、令和11年分について「本則と簡易のどちらが有利か」を、令和11年の数字が出そろってから決められるということ。従来は前年末までに未来を予想して決めるしかなかったので、実務としてはかなり助かります。もっとも、期限を過ぎれば戻れません。どちらが有利かは売上構成と仕入の中身で変わりますので、最終的にはご自身の帳簿を見て判断してください。

2026年10月からの経過措置は「50%」ではなく「70%」です

ここまでは「自分が納める側」の話。今度は「免税事業者に払う側」の話です。免税事業者からの課税仕入れについては、一定割合を控除できる経過措置があります。令和8年度税制改正で、この割合が変わりました。

  • 令和5年10月1日〜令和8年9月30日:80%(2026年8月現在はここ。残り約1か月半)
  • 令和8年10月1日〜令和10年9月30日:70%(改正前の予定は50%。緩和されました)
  • 令和10年10月1日〜令和12年9月30日:50%
  • 令和12年10月1日〜令和13年9月30日:30%
  • 令和13年10月1日(2031年10月)以降:控除不可

出典は国税庁 令和8年度税制改正特集、財務省 令和8年度税制改正大綱概要です。多くの記事がまだ「2026年10月から50%」と書いていますが、それは改正前の内容です。冒頭の電話の答えは、これでした。

あわせて、同一の免税事業者等からの課税仕入れの合計が年1億円を超える場合、超えた部分は経過措置の対象外という規定も新設されました。個人サロンの面貸し料でこの金額に届くことは、まずありません。

「登録してほしい」と言われたときの、数え方

面貸しや業務委託で入っているスタイリストさんが、サロン側から「インボイス登録をしてほしい」と言われる。この相談が、この時期いちばん多いです。

サロン側の事情は分かります。未登録の相手に払う面貸し料や委託料は、2026年10月から控除が70%に、2028年10月からは50%に目減りしていくからです。

ただし、公正取引委員会は考え方を示しています。課税事業者になってほしいと要請すること自体は問題ない。しかし、応じない場合に一方的に取引価格を引き下げる、あるいは取引を打ち切ると通告することは、独占禁止法上問題となりうる。実際に注意事例も出ています(公取委「インボイス制度後の免税事業者との取引に係る下請法等の考え方」Q&A、令和8年1月30日改定)。

そのうえで、感情ではなく数字で比べてください。比べるのは二つです。①未登録のままで受ける実質的な値引き要求額と、②登録した場合の納税額。売上550万円(税抜500万円、消費税50万円)なら、令和8年分は2割特例で約10万円、令和9・10年分は3割特例で約15万円。要求される値引きがこれを上回るなら、登録したほうが手取りは多くなります。下回るなら、登録しないほうが残ります。

もちろん、取引を続けたいかどうかという判断も入りますし、将来の売上見込みでも答えは変わります。杉並でこれから店を持つつもりの方なら、杉並区でサロンを開業する場合の全体像と合わせて、登録のタイミングごと設計したほうが早いこともあります。

消費税の選択でお悩みの方へ、当事務所ができること

当事務所は杉並区の美容業専門。美容室・ネイル・まつげエクステ・エステと、業種ごとに数字の形が違うことを前提に、記帳から申告、資金繰りまでを見ています。

「この経費は入れていいのか」「そろそろ法人にすべきか」。判断に迷ったときにすぐ聞ける相手がいるかどうかで、手元に残るお金は変わります。サービスの詳細はこちら私のプロフィールはこちらにまとめています。

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