・経費かどうかを分けるのは領収書の有無ではなく、「事業の遂行上直接必要だった」と示せるかどうかです。
・自宅サロンの家賃や光熱費は、床面積・使用時間などの合理的な基準で按分できます(所得税基本通達45-1・45-2)。
・少額減価償却資産の特例は令和8年度税制改正で30万円未満から40万円未満へ。ただし適用開始時期は未確認のため、高額な資産を買う前に確認を。
夜の十時。最後のお客様を見送って、鏡を拭き、タオルを洗濯機に放り込む。レジを締めたあと、引き出しからレシートの束を出す。三か月ぶん。
広げていくと、いろいろ出てきます。シャンプーの詰め替え。ハサミの研ぎ代。去年の講習会の参加費。それから、接客のときに着ているワンピースのタグ。
手が止まるのは、たいてい同じところです。
こんにちは。杉並区で美容業専門の税理士事務所をやっている清水智佳子です。今日は、サロンの経費をどこまで入れていいのか、その線引きの考え方と、迷いやすいものの示し方をお話しします。
よくある質問
- Q. 領収書があれば経費になりますか。
- A. それだけでは足りません。領収書は払った証拠であって、事業のために使った証拠ではないからです。相手と目的をメモして、はじめて説明が立ちます。
- Q. 自宅サロンの家賃は、全額入れていいですか。
- A. 全額は難しいです。所得税基本通達45-1・45-2により、業務の遂行上直接必要だった部分を床面積などの合理的な基準で区分します。
- Q. 30万円未満が40万円未満に上がったと聞きました。もう使えますか。
- A. 引上げ自体は中小企業庁・財務省の資料で確認できます。ただし2026年8月16日時点で、いつ取得した資産から使えるのかは一次情報で確認できていません。国税庁のタックスアンサーもまだ30万円未満のままです。購入前に必ず確認を。
「これは経費になりますか」の答えは、ひとつしかありません
この仕事でいちばん多い質問です。答えはいつも同じ形になります。事業の遂行上、直接必要だったと示せるなら経費。示せないなら家事費。それだけです。
問題は「示せる」の中身。レシートに書いてあるのは金額と店名と日付だけで、なぜ買ったのかは自分で埋めるしかありません。裏でも会計ソフトの摘要でもいいので、相手と目的を一行書く。「◯◯商事の担当者とカラー剤の打合せ」。それだけで、三年後の自分にも、税務署の担当者にも説明が立ちます。
経費になるかどうかは、買った瞬間ではなく、記録した瞬間に決まります。
自宅サロンの家事按分は、基準を決めて、そのまま使い続ける
杉並区は住宅街にサロンが点在する街です。自宅の一室でネイルやまつげエクステをされている方も多い。家賃も電気代も、生活と事業が混ざっています。
混ざったものを分けるのが家事按分です。根拠は所得税基本通達45-1・45-2。「業務の遂行上直接必要であったことが明らかにされる部分」を合理的な基準で区分します。大事なのは、決めた基準を記録して毎年同じように通すこと。開業まわりの全体像は杉並区でサロンを開業する場合の全体像にまとめています。
家賃・地代は、床面積で分ける
いちばん説明しやすい基準です。総面積60平方メートルのうち、施術スペースと待合で18平方メートルなら3割。間取り図に事業部分を塗り、面積と計算式を書き込んで控えと一緒に保管する。それが根拠です。
水道光熱費は、使用時間や使用日数で分ける
電気代は、営業日数と営業時間から比率を出すのが素直です。水道代は、シャンプー台のあるサロンとネイルサロンで事情がまったく違います。よそで見た数字を、そのまま当てはめないでください。スマートフォンや車も同じ。営業時間の割合や走行距離の記録など、説明できる根拠を選びます。
資産は、金額で扱いが変わります。10万・20万・40万の三本の線
シャンプー台、セット面、脱毛機。買ったものが「その年の経費」になるか「資産」になるかは、金額で決まります。線は三本。
ひとつめ、10万円未満。買った年に全額を経費にできます。消耗品費です。
ふたつめ、10万円以上20万円未満。一括償却資産として3年で均等に償却します。この扱いなら償却資産税(固定資産税の償却資産分)の対象になりません。
みっつめ、少額減価償却資産の特例。青色申告者限定で、その年に全額を経費にできます。ただし償却資産税の対象になり、年間合計300万円が上限。従業員400人超の法人は使えません。
この三本目がいま動いています。長く「30万円未満」だった基準が、令和8年度税制改正で「40万円未満」に引き上げられ、適用期限も3年延長されました。中小企業庁は適用期限を令和10年度末、つまり令和11年3月31日までと記載しています(出典:中小企業庁、財務省「令和8年度税制改正大綱」)。
ただ、正直に書きます。40万円未満が「令和何年何月何日以後に取得した資産」から適用されるのか、私は一次情報で確認できていません。2026年8月16日時点で、国税庁のタックスアンサーNo.2100とNo.5408も、まだ「30万円未満」の記載のままです。
30万円台の資産を買う予定のある方は、発注のボタンを押す前に「この取得日で40万円未満の特例は使えますか」と確認してください。設備の資金計画そのものはエステサロンの機器の資金計画や美容室の開業資金の内訳でも触れています。
判断が分かれるもの。衣装代、美容代、研修費、資格取得費
ここからは、私が「断定できません」と言う領域です。
まず衣装代と美容代。見た目そのものが仕事の一部だという感覚は、私にもよく分かります。ただ、税務では厳しく見られます。国税不服審判所の公表裁決事例でも「家事費、家事関連費」として争いになっており、事業専用でプライベート使用がないことを示せない支出は否認されやすい傾向があります。服は仕事のあとも着られる。髪も帰り道でそのまま。そこが難しい。
示し方は二方向です。事業以外に使えない形にすること。ロゴ入りのユニフォーム、全員への支給、持ち帰らないルール。もうひとつは、使った事実を残すこと。撮影やコンテスト用なら、その日の写真や告知と紐づけて保管する。
それでも100%通るとは言えません。最終的には個別の事情によります。私がお伝えしているのは「入れるなら、聞かれたときに説明できる形にしてから」ということです。
研修費は事情が違います。技術講習会やセミナーの費用は、いま行っている事業に直接必要なら経費になり得ます。一方、資格そのものを取るための費用は、その人に残る能力を得る支出とみなされ、家事費とされる例が多いです。美容業に特化した国税庁の見解文書は、私が探した範囲では見つかっていません。業界の空気ではなく、支出ごとの結びつきで考えてください。
受け取ったPDFを、印刷して終わりにしない
最後に残し方です。電子取引データの電子保存は、すでに義務化されています。メールで届いた請求書のPDF、ネット通販の領収書、決済の明細。データのまま残す必要があり、印刷だけして元データを捨てるのはNGです。
高いシステムは要りません。「相当の理由」がある場合の猶予措置は期限の定めのない恒久措置とされ、データのダウンロードの求めと書面の提示の両方に応じられるなら、細かい保存要件を満たさなくてもよい作りです。検索要件が不要となる基準は前々年の売上5,000万円以下。一人サロンの多くは、ここに入ります。
クラウドに専用フォルダを一本つくり、日付と相手先で名前を付けて放り込む。それで足ります。
あわせて改正をひとつ。令和8年分以後、基礎控除は合計所得金額2,350万円以下の方で58万円から62万円に、給与所得控除の最低保障額は65万円から69万円に引き上げられます(出典:財務省「令和8年度税制改正大綱」、国税庁)。経費を一円ずつ足すより、改正の取りこぼしを防ぐほうが効くこともあります。消費税の選び方は2割特例の終わりと、次に選ぶ消費税の方法に整理しました。
サロンの経費でお悩みの方へ、当事務所ができること
当事務所は杉並区の美容業専門。美容室・ネイル・まつげエクステ・エステと、業種ごとに数字の形が違うことを前提に、記帳から申告、資金繰りまでを見ています。
「この経費は入れていいのか」「そろそろ法人にすべきか」。判断に迷ったときにすぐ聞ける相手がいるかどうかで、手元に残るお金は変わります。サービスの詳細はこちら、私のプロフィールはこちらにまとめています。
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